作品 32

1986年 太刀 天田収貞作
昭和六十一年二月日
刃長 62.4cm 反り 1.1cm
形状 切先両刃造り、庵棟。
地鉄 (じがね) 小板目肌よく詰み、地沸つき、地景入る。
焼刃 (やきば) 匂出来の直刃。
帽子 (ぼうし) 直に焼き詰める。
彫刻 表裏の中央に棒樋を掻き流し、薙刀樋を添える。
中心 (なかご) 棟小肉、鑢目筋違、先栗尻、孔一。


収貞(かねさだ)刀匠(本名貞夫、昭和八年~)は天田さんの実弟である。
戦後、作刀が禁止され、やむなく農具や刃物の鍛冶を生業としていた当時から、形影相伴うごとく仕事を
共にしてきた。刀に転じては、自家製鉄から鍛錬、実験研究、弟子の育成に至るまで、すべてにかかわってきた。
あえて言うなら、この良き協力者がいなかったなら、天田さんは現在と違った行き方を選択せざるを得なかったかもしれない。
本刀は、新作名刀展において優秀賞を受賞したものである。
本歌は著名な御物「小鳥丸」で、この独特な造り込みを小鳥造りとも言う。
平安時代初期の作で、区際(まちぎわ)に顕著な反りが見られるばかりでなく、刀身にも明らかに反りが認められるところから、大刀から次代の太刀姿への過渡期を物語るとされている。
本作品の地鉄には、磁鉄鉱の一種である餅鉄を還元して得た鉧を用いている。
丹念に鍛えて美しく、両刃も見事に決まっている。さすがは経験豊かな手練れの技である。

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