1972年 | 刀 | 銘 | 天田昭次作之 昭和壬子歳初夏吉日 |
刃長 73.5cm 反り 1.8cm |
形状 | 鎬造り、庵棟、中切先延びる。 |
地鉄 (じがね) | 板目肌、総体に流れ肌交じり、鎬地柾ごころとなる。地沸厚くつき、地景入り。 砂流し状また、二重刃風の湯走りところどころかかる。 |
焼刃 (やきば) | 匂出来の互の目乱れ、沸深く、やや粗めの沸交じり、刃中よく足入り、金筋・砂流しかかる。 |
帽子 (ぼうし) | 乱れ込み、先掃きかけて返る。 |
中心 (なかご) | 棟小肉、鑢目勝手下がり、先浅い栗尻、孔一。 |
病癒えて作刀を再開するのは、昭和四十三年である。
本作はその四年後、新作名刀展と改称した展覧会の無鑑査に認定された直後のものである。 この年の秋には、小形製鉄炉の研究により、日本美術刀剣保存協会から第一回薫山(くんざん)賞も授賞されている。
前掲の作品当時からは、技法上、いくつかの大きな変化があった。 特筆されるのは、病床にあって銑にこだわり、思索を重ねていたが、快復後、ついにその処理法に光明を得たことである。
小形反射炉を応用した独創である。 これで得られた鋼はスラグ(鉄滓)が少なく、下鍛え・上げ鍛えの別なく通しで十二回前後の折り返し鍛錬で、適当な炭素量になったという。
本刀は、その材料をもって製作された。
いわゆる相州伝の、傑出した出来を示す。
何をもって相州伝と称するかは、人によって見解を若干異にするが、相州上工の地刃の働きや沸の輝きを手本とすることに異論はなかろう。
戦後の美術刀剣の典型の一つが、ここに見られる。
天田昭次 作品集より